現在のわが国物流は危機的状況に直面 最終答申冒頭で強調 社整審交政審
社会資本整備審議会と交通政策審議会は12月25日、今後の物流政策の基本的な方向性等についての答申を行った。
答申にあたっては、社会資本整備審議会道路分科会基本政策部会と交通政策審議会交通体系分科会物流部会で昨年4月から検討を行ってきており、12月14日には答申案を審議した。
その際、「物流の危機」に関する説明について、答申案では「おわりに」で記述されたが、「答申の最初で説明すべき」との意見が複数の委員より出されたことから、最終答申では物流の危機を前面に押し出し、消費者を含む全ての関係者に理解と協力を訴える構成に改められた。
答申は9月に示された中間取りまとめをベースに「はじめに」「物流を巡る社会経済の状況」「物流の目指すべき将来像」「今後の物流政策の基本的な方向性等」「物流の目指すべき将来像の実現に向けた具体的施策等のあり方」「おわりに」―で構成。
「はじめに」では、委員からの指摘を踏まえ、「わが国の物流は、今、危機的な状況に直面している」と説明。その理由を、「物流分野の労働者の確保がきわめて厳しい状況となっていることに起因する」と指摘している。
その上で、「高品質な物流サービスを永続的に提供できなくなる事態を避けなければならない、という強い危機感をもって、審議結果を答申として取りまとめる」と説明するとともに、これまでの物流政策について、「トラックの規制緩和により市場の健全性に必ずしもプラスには作用しなかった」などとし、「反省すべき点は率直に反省し、今後の教訓として果敢に次なる施策に活かしていくことが重要」としている。
「物流を巡る社会経済状況の変化」では、人口減少による労働力不足の顕在化や貨物の小口化・多頻度化の進行、顧客ニーズの多様化などについて説明するとともに、2019年4月に予定されている月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の中小企業への適用を踏まえ、荷主を含めた関係者が一体となって手待ち時間解消などの対策を進めていく必要があるとしている。
「物流の目指すべき将来像」では、生産性向上に向けた物流の省力化・効率化や物流現場の就業先としての魅力向上に向けた「働きたい職場」への変革の必要性を強調。
「今後の物流政策の基本的な方向性等」では、「物流フロンティアへの挑戦」として、切り口を変えた物流サービスの提供や関係者の連携・協力による「知恵比べ」などを通じて新たな物流サービスの展開を図るとともに、宅配の受け取り方法多様化などにより消費者のライフスタイルそのものを変えるなどの取り組みも重要であるとしている。
また、波動パターンの異なる荷主同士の連携による物流共同化を通じた需要平準化や潜在的輸送力の活用などにより、生産性を向上させることも重要であると指摘。
さらに、地方ブロックでの広域的なコンテナ輸送合理化や駅周辺での物流エリアマネジメントをはじめとして、「『面』的な物流ネットワーク」の構築に向けた「制度的枠組み」の整備など、わが国物流ネットワーク再構築に向けた変革の必要性にも言及している。
「物流の目指すべき将来像の実現に向けた具体的施策等のあり方」では①モーダルシフト②トラック輸送効率化③物流ネットワークの拠点高度化④国際コンテナ戦略港湾、貨物鉄道等の既存インフラのストック効果の一層の発現⑤過疎地等での持続可能な物流ネットワーク構築⑥都市内物流マネジメント⑦海外展開をはじめとする新たな市場の開拓⑧就業環境の改善と定着率向上―などについて、行うべき具体的な施策を記述している。
モーダルシフトについては、貨物鉄道事業者が事業の的確な運営などにより担い手としてふさわしい経営体力を備えるとともに、リードタイムや時刻など荷主ニーズを満たすことが重要であると指摘。
トラック輸送効率化については、トラック事業者による共同運行や車両の大型化、ETC2.0の活用などを盛り込んでいる。
物流拠点高度化については、トラック運行拠点と大型倉庫の併設による空車回送削減や鉄道貨物での低床貨車実用化の必要性などを記載。過疎地での物流維持については、貨客混載や自家用車活用の有償貨物運送などを検討すべきとした。
就業環境の改善と定着率の向上では、運送契約の書面化を通じた適正運賃・料金収受や労働生産性の向上により労働者の所得向上と長時間労働抑制を図るとともに、賃金へのしわ寄せなど「社会負荷の見える化」を図る必要があると指摘している。
なお、答申案で「危機を乗り越え、自ら変わる、日本を変える、未来を創る~『物流生産性革命』と『未来へ続く魅力的な物流への進化』~」とされたサブタイトルについては、「危機を乗り越え、自ら変わる、日本を変える~『物流生産性革命』と『未来に輝く物流への進化』へ協同~」に改められた。