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2016年1月11日付 2593号

現在のわが国物流は危機的状況に直面 最終答申冒頭で強調  社整審交政審

 社会資本整備審議会と交通政策審議会は12月25日、今後の物流政策の基本的な方向性等についての答申を行った。

 答申にあたっては、社会資本整備審議会道路分科会基本政策部会と交通政策審議会交通体系分科会物流部会で昨年4月から検討を行ってきており、12月14日には答申案を審議した。
その際、「物流の危機」に関する説明について、答申案では「おわりに」で記述されたが、「答申の最初で説明すべき」との意見が複数の委員より出されたことから、最終答申では物流の危機を前面に押し出し、消費者を含む全ての関係者に理解と協力を訴える構成に改められた。
 
 答申は9月に示された中間取りまとめをベースに「はじめに」「物流を巡る社会経済の状況」「物流の目指すべき将来像」「今後の物流政策の基本的な方向性等」「物流の目指すべき将来像の実現に向けた具体的施策等のあり方」「おわりに」―で構成。
「はじめに」では、委員からの指摘を踏まえ、「わが国の物流は、今、危機的な状況に直面している」と説明。その理由を、「物流分野の労働者の確保がきわめて厳しい状況となっていることに起因する」と指摘している。
その上で、「高品質な物流サービスを永続的に提供できなくなる事態を避けなければならない、という強い危機感をもって、審議結果を答申として取りまとめる」と説明するとともに、これまでの物流政策について、「トラックの規制緩和により市場の健全性に必ずしもプラスには作用しなかった」などとし、「反省すべき点は率直に反省し、今後の教訓として果敢に次なる施策に活かしていくことが重要」としている。

 「物流を巡る社会経済状況の変化」では、人口減少による労働力不足の顕在化や貨物の小口化・多頻度化の進行、顧客ニーズの多様化などについて説明するとともに、2019年4月に予定されている月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の中小企業への適用を踏まえ、荷主を含めた関係者が一体となって手待ち時間解消などの対策を進めていく必要があるとしている。
「物流の目指すべき将来像」では、生産性向上に向けた物流の省力化・効率化や物流現場の就業先としての魅力向上に向けた「働きたい職場」への変革の必要性を強調。
「今後の物流政策の基本的な方向性等」では、「物流フロンティアへの挑戦」として、切り口を変えた物流サービスの提供や関係者の連携・協力による「知恵比べ」などを通じて新たな物流サービスの展開を図るとともに、宅配の受け取り方法多様化などにより消費者のライフスタイルそのものを変えるなどの取り組みも重要であるとしている。

 また、波動パターンの異なる荷主同士の連携による物流共同化を通じた需要平準化や潜在的輸送力の活用などにより、生産性を向上させることも重要であると指摘。
さらに、地方ブロックでの広域的なコンテナ輸送合理化や駅周辺での物流エリアマネジメントをはじめとして、「『面』的な物流ネットワーク」の構築に向けた「制度的枠組み」の整備など、わが国物流ネットワーク再構築に向けた変革の必要性にも言及している。

 「物流の目指すべき将来像の実現に向けた具体的施策等のあり方」では①モーダルシフト②トラック輸送効率化③物流ネットワークの拠点高度化④国際コンテナ戦略港湾、貨物鉄道等の既存インフラのストック効果の一層の発現⑤過疎地等での持続可能な物流ネットワーク構築⑥都市内物流マネジメント⑦海外展開をはじめとする新たな市場の開拓⑧就業環境の改善と定着率向上―などについて、行うべき具体的な施策を記述している。
モーダルシフトについては、貨物鉄道事業者が事業の的確な運営などにより担い手としてふさわしい経営体力を備えるとともに、リードタイムや時刻など荷主ニーズを満たすことが重要であると指摘。
トラック輸送効率化については、トラック事業者による共同運行や車両の大型化、ETC2.0の活用などを盛り込んでいる。
物流拠点高度化については、トラック運行拠点と大型倉庫の併設による空車回送削減や鉄道貨物での低床貨車実用化の必要性などを記載。過疎地での物流維持については、貨客混載や自家用車活用の有償貨物運送などを検討すべきとした。
就業環境の改善と定着率の向上では、運送契約の書面化を通じた適正運賃・料金収受や労働生産性の向上により労働者の所得向上と長時間労働抑制を図るとともに、賃金へのしわ寄せなど「社会負荷の見える化」を図る必要があると指摘している。

 なお、答申案で「危機を乗り越え、自ら変わる、日本を変える、未来を創る~『物流生産性革命』と『未来へ続く魅力的な物流への進化』~」とされたサブタイトルについては、「危機を乗り越え、自ら変わる、日本を変える~『物流生産性革命』と『未来に輝く物流への進化』へ協同~」に改められた。

名鉄運輸と資本提携 日通が株式20%取得 特積みネット相互利用等

 日本通運(渡邉健二社長)と名鉄運輸(柴田雄己社長)は12月25日、資本業務提携契約および株式譲渡契約を締結、日通が4月1日付で名鉄運輸の株式20%を取得するとともに、特積み輸送ネットワークの相互利用等を推進していく。
日通は名古屋鉄道に次ぐ第2位の株主となる。同日付で名鉄運輸が公表した「信州名鉄運輸との株式交換契約締結」の効力発生を前提としている。

 これまでも両グループは、一部地域で特積み事業の共同配送や施設の共同利用を実施してきたが、特積みマーケットの大幅な成長が見込めない中、ドライバーをはじめ労働力不足等の外部環境の変化に対応するため、より強固な関係を築くことが両社グループにとって有効と判断した。

 両社は今後、①特積み輸送ネットワークの相互利用によるオペレーションの効率化とサービスレベルの向上②引越、鉄道コンテナ等の補完関係がある物流サービスの連携強化③両社グループが持つさまざまな輸送サービス、ノウハウ、アセットの活用による事業領域の拡大④アセットの共同利用や情報システム等の共同開発による資産効率の向上⑤仕入れ・購買の共同化による原価の低減―などに取り組む。

 信州名鉄運輸の株式交換契約に関しては、同社発行株式の76.46%を名古屋鉄道、18.79%を名鉄運輸が保有しており、2月19日開催の臨時株主総会での決議を経て、4月1日付で株式交換により名鉄運輸が信州名鉄運輸を完全子会社化する予定。

今週掲載トピック一覧

  • ☆各界年頭あいさつ
    ☆物流業界の新年会
    ☆物流界昨年のトピック
    ☆アベノミクス物流にとって「吉」か「凶」か(50)『“大義なき解散”はあるか』
    ☆四文字『時代に即応「事業法令(3)」』

  • ☆16年度予算閣議決定、エネ特の活用により大型シャシー導入などに補助 物流分野も拡充
    ☆センコーランテック、シノトランスエアと中国内の冷凍・冷蔵物流を行う合弁会社設立で合意
    ☆全ト協、出捐金事業評価会議で評価受ける 9事業項目中6項目がA評価
    ☆日倉協、第4四半期研修計画を決定 オンデマンド視聴研修を開始
    ☆全ト協日貨協連、WebKIT12月稼働状況(速報) 求車情報が過去2番目に多い12万3583件に
    ☆国交省・経産省、総合物流施策推進会議を開催 総合物流施策推進プログラムに低床貨車の導入検証追加
    ☆JR貨物・労使、新春フォーラムを開催 黒字化について「受けて立つ」
    ☆日立物流、国内連結子会社7社の商号を4月に変更 ブランド認知向上などが目的
    ☆ベトナム日通エンジニアリング、ディンブー工業団地に重機専用施設が竣工 本社も移転
    ☆三井倉庫、那覇国際コンテナターミナルの株式51%を取得
    ☆厚労省、14年の監督指導状況発表 トラック運転者使用事業場の84%で労基法等違反
    ☆取引環境・労働時間改善埼玉県協議会開催、荷主の構内トラック管理システム紹介
    ☆タイ日通、レムチャバンに重量品専用倉庫が竣工
    ☆日通総研、貨物見通し発表 TPP輸出入貨物量は発効までに時間を要し当面影響はない模様
    ☆西濃運輸野球部・空手道部、両部が始動 今年の活躍を誓う

今週のユソー編集室

  • ▼年が明けて2016年がスタートした。本来なら新年あけましておめでとうございますと言いたいところだが、緊迫度を増す世界情勢などもあって、あまりおめでたい気分になれないのが残念だ。
    ▼サウジアラビアとイランの断交、北朝鮮の核実験、中国の膨張政策がもたらすアジア域内の摩擦など、平和を脅かすニュースは枚挙にいとまがない。グローバル化を目指す日本にとっても、不安材料は尽きない。
    ▼4日には上海株が急落し、今年から導入されたサーキットブレーカー制度が、取引初日からいきなり発動する事態になった。6日には世界銀行が2016年の世界の成長率予想を下方修正し、中国経済の減速に懸念を示している。
    ▼今年もなかなかに多難な年となりそうだが、トラック運送業界では労働条件の改善に向けて、極めて重要な年になる。高齢化が進む現場がこれ以上疲弊しないよう、現場作業に従事している方々の今年一年の健康と安全を祈る。

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