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2015年5月11日付 2563号

交通政策審議会に「物流部会」設置、今後の物流政策を年内に太田国土交通大臣に答申

物流部会設置で「ワンステージ上」の議論がスタートした

 太田昭宏国土交通大臣はこのほど、交通政策審議会と社会資本整備審議会に対し、今後の物流政策の基本的な方向性について諮問。これを受け、交政審は交通体系分科会に「物流部会」を設置し、4月30日に東京都千代田区の国土交通省で社整審道路分科会基本政策部会と合同で、第1回物流部会を開催した。

 太田国交大臣は、わが国物流について①経済成長や産業立地競争力強化への貢献②国民生活や消費者利便の向上③新技術の活用④物流事業者が求められる機能を発揮できる環境の整備―などの視点から検討を行い、「新たな物流政策を展開するための今後の方向性を速やかにまとめて推進を図る必要がある」ことを諮問理由にあげている。検討にあたっては、「中期的な物流政策」「広域物流」「地域物流」「その他」を視点に据え、年内に答申を行う。

 中期的な物流政策については、「国土のグランドデザイン2050」や「社会資本整備重点計画」などを踏まえ、労働力人口減少に対応した物流の効率化・省力化、既存ストックの有効活用などについて検討。
 広域物流については、モーダルシフト促進やトラック輸送効率化などに向けた事業者間連携などについて話し合うとともに、国際コンテナ戦略港湾と鉄道貨物の連携に向けた海上コンテナラウンドユースや背高コンテナ対応低床貨車の開発などについて検討する。
 地域物流については、大都市での共同輸配送促進や再配達削減のほか、過疎地での持続可能な物流ネットワーク構築に向けた検討も行う。
 その他、災害対応力向上やドローンなどの新技術の活用、わが国物流システムの海外展開に向けた人材育成などについても話し合う予定。

 物流部会は、野尻俊明流通経済大学長を部会長に、学識経験者、有識者、労働組合代表の合計15人で構成。社整審道路分科会基本政策部会は、家田仁東大政策研究大学院大学教授を部会長に12人で構成されている。8月下旬に第2回合同会議を開き今後の物流政策のあり方についての中間取りまとめを行うが、それまでに関係者ヒアリングやフリーディスカッションなどを含めた小委員会を3~4回開く。


広範にわたり多様な意見

 第1回合同部会では、物流部会設置の目的や検討の視点、物流をめぐる状況などについて事務局が説明。その後、各委員が意見を述べた。委員の発言要旨は次のとおり。(発言順、氏名前の◎は物流部会委員、○は基本政策部会委員)。

 ◎永峰好美読売新聞東京本社編集委員=消費者の目線では、モノがどのように手元に届くかが見えにくい。再配達削減も消費者の利便性をどのように確保するかの視点が必要。
 ◎二村真理子東京女子大教授=消費者が物流について“心配しなくていい”ことが重要で、物流の中身は見えなくて構わない。物流政策は国が、“選択と集中”でやるべき。
 ◎矢野裕児流通経済大教授=人材不足などで荷主が輸送事業者に負荷を押し付ける商習慣が崩れつつあり、安い運賃を前提にした物流システムも変わる可能性が高い。
 ◎西村悦子神戸大大学院准教授=過疎地でも現状はモノが問題なく届いていると感じるが、旅客部門の交通が手薄になっているので、貨客混載の検討が重要。
 ◎小林潔司京大経営管理大学院経営研究センター長・教授=物流の小口化が進んでいるということは、まだ買い物需要は飽和していない。ICタグや静脈物流の検討も行うべき。
 ◎苦瀬博仁流通経済大教授=災害物流では、物資の備蓄だけではなく、日常的な補給とのバランスを考える必要がある。
 ◎岡田孝日本総合研究所主席研究員=モーダルシフトは、JR貨物だけではなく、他のモードの活用も必要。
 ◎圓川隆夫東京工業大名誉教授=サプライチェーンをつなぐ技術ができて、物流が“見える”ようになっている。ムラや無駄が出ないよう「見える化」に向けたインフラが必要。
 ◎羽藤英二=東大大学院教授=物流活動のデータをどのように構築・運用するかを考える必要がある。過疎地での物流を維持するには効率化が必要で、地域の拠点の共有化・活用が重要。
 ◎根本敏則一橋大大学院教授=大型車の過積載は取り締まりを強化する必要があるが、これとは別の議論としてコンテナの国際標準に合わせた車両の大型化は必要。
 ○久保田尚埼玉大大学院教授=道路安全の視点も必要。現状見られる道路を使った荷待ちはおかしい。自転車を含めた道路空間の利用も考えるべき。
 ○勝間和代中大ビジネススクール客員教授・経済評論家=何が物流のボトルネックになっているかを三つくらい挙げるべき。物流の情報インフラは複雑なので、国が整備すべき。
 ○朝倉康夫東京工業大大学院教授=“公”の持つ情報は公開するのが原則。災害時の緊急物資は平常時にも“回す”仕組みが必要。
 ○家田基本政策部会長=物流では10年ぐらい同じ課題を取り上げているが、長い目で見て何が必要かを考えるべき。日本の物流が世界のトップランナーになるよう5~10年で課題解決を達成するという感覚も必要。また、国民が協力しなければ“いい物流”にならないというコンセンサスを醸成するべき。
 ◎野尻物流部会長=トラックは、これまで供給過剰の状態が続いてきたが、これからはそうではなくなる。トラック産業は、構造的転換点にきている。

宅配単価は17円改善、適正運賃収受ほぼ終了  SGホールディングス

 SGホールディングス(町田公志社長)は8日、東京都千代田区の国交省で決算会見を行い、中島俊一取締役が2014年度商品別実績や、15年度の取り組みなどについて語った。

 14年度の飛脚宅配便は11億9600万個の前期比11・9%減。うち飛脚航空便は852万個の6.2%減、飛脚クール便は2997万個の3.0%増。メール便は2億8007万冊で18.7%減、うち飛脚メール便が5299万冊の25.2%減、飛脚ゆうメールが2億2708万冊の17.1%減。e―コレクトについては、個数が1億842万個の7.3%減、決済金額が1兆1427億円の5.0%減。

 全売上高8574億円の8割超を占めるデリバリー事業については、消費増税等により宅配個数が減少したものの、適正運賃収受や「スマート納品」など戦略的商品の拡販、館内物流サービス拡充、戦力費の変動費化などにより、増収増益を達成した。宅配便単価は前期の486円から503円へ17円改善し、2年前の水準と比較すると43円の改善。同社ではこれについて「適正運賃収受活動はほぼ終了した」との見解を示している。社員・パート・アルバイトを含む期末人員数は8万315人で、前期末と比較して6008人増加した。

 15年度については、宅配便個数で1.2%~1.3%程度の増加、単価はほぼ横ばいを見込んでおり、デリバリー事業における「SGローソン」の本格的な運用開始やスマート納品の拡充、ロジスティクス事業における先進的プロジェクトチーム「GOAL」の営業活動拡充などに取り組んでいく。このほか14年度はエクスポランカ社の売上高が半期分の200億円程度しか計上されなかったのに対し、15年度は通期分の400億円程度の計上を見込んでいること、私募リートの外部販売が業績に寄与することなどから、業績予想数値がいずれも2桁に近い伸びを示していると説明した。

今週掲載トピック一覧

  • ☆道『米ドルとオイルショック、車社会』(26)

  • ☆ヤマトロジスティクス、オリックス環境から事業譲受し機密文書処理拡大へ
    ☆JR貨物がグループ社長会議、各種制度や人事面で活性化へ
    ☆国交省・羽尾物流審議官、宅配の再配達削減へ通販交え検討会
    ☆全ト協、交差点での事故防止へマニュアル制作など
    ☆ヤマトHD、14年度の海外宅急便は台湾除く4都市で16%増に
    ☆ヤマト運輸等、秋田県湯沢市と全国初の「高齢者見守り支援」「リコール製品回収」の連携協定
    ☆DHLとシスコがレポート発表、ネット接続拡大し今後10年で物流に200兆円の利益
    ☆各社の15年3月期決算

今週のユソー編集室

  • ▼先日首相官邸に落下した無人航空機「ドローン」は、警察の警備体制の不備を表面化させるなど社会に大きな衝撃を与え、政府は今国会で規制法案を成立させるという。
    ▼近年の技術の進歩はすさまじく、一般人には10年先どころか5年先の見通しも難しい時代になった。技術には常に善悪両用という側面があり、新技術の実用化のためにはハード・ソフト両面での悪用や誤用防止策が不可欠だ。
    ▼今月7日の報道によれば、米国では独ダイムラー製の自動運転トラックが、走行制御装置などを扱う担当者が必要な場合に運転を代わるという条件で、世界で初めて公道において自律走行を定期的に行う認可を得たという。
    ▼事故時の対応や荷物の安全確保はどうするのか、といった疑問が湧いてくるが、まずはこの技術の将来性に注目してみたい。きっと今までも多くの技術が、そうした批判的な目にさらされながら、実用性を磨いてきたのに違いないと思うからだ。

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