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2015年6月8日付 2567号

バスによる宅急便輸送、岩手県盛岡~宮古間で貨客混載がスタート  ヤマト運輸・岩手県北自動車

「ヒトものバス」の前で握手する長尾社長(右)と松本社長(左)

 バスで宅急便を運ぶ「ヒトものバス」発車―。
 ヤマト運輸(長尾裕社長)は3日、岩手県北自動車が岩手県盛岡市・宮古市間で運行する都市間路線バス「106急行バス」を活用して宅急便輸送を行う「貨客混載」を開始。過疎化により集配のさらなる効率化が求められる物流事業者と乗客の減少に悩むバス事業者が手を組んだ公共交通ネットワーク維持に向けた取り組みとして全国の関係者が注目する中、「ヒトものバス」と名付けられた専用バスが発車した。

 3日に盛岡駅前で開かれた出発式でヤマト運輸の長尾社長は、中山間地域では高齢化や過疎化が進み、生活を支える公共交通ネットワークの維持がより重要性を増しているとの考えを示した上で、物流事業者とバス事業者は生活インフラとしていかに生産性を高めるかが共通の課題になっていると強調。これまでトラックで輸送していた宅急便の一部を岩手県北バスに乗せ換えることで、長期的なネットワーク維持や生産性向上、CO2削減などにつなげていきたいとした。

 また、ヤマト運輸では「一番身近で一番愛される企業」を目指し、全国約4千ヵ所の宅急便センターで地域に根差したサービスを展開しており、高齢者の見守りサービスなどを行う「プロジェクトG」を推進していると説明。岩手県内でも、高齢者の見守りや買い物支援などを行う「まごころ宅急便」を展開しているが、バスを活用した貨客混載によって地域住民が今後も安心して暮らしてもらえるよう、岩手県北自動車と取り組んでいきたいと述べた。

 岩手県北自動車の松本順社長は、昨年ヤマト運輸側から貨客混載の打診があったことを明らかにした上で、木川眞ヤマトホールディングス前社長が「互いに妥協しても地域の社会インフラのため実現しよう」と力強く語った逸話を披露。結果的に「できることを広げ、できないことを狭めた」ことで人と宅急便の融合というユニークな取り組みが実現したと語った。また、座席を取り外して専用の荷物スペースを設ける本格的な貨客混載バスは、「私の知る限り本邦初」とし、「市民の方がこのバスを見たときにヤマト運輸と岩手県北自動車の取り組みを思い出してもらえれば幸い」と述べた。さらに、貨客混載バスは地方創生モデルとしても重要であるとし、「乗客と荷物を運ぶことに誇りを持って臨みたい」と抱負を示した。

今後各地に波及の可能性大

 「ヒトものバス」は、高速バスや貸し切りバスなどに用いられる全長12メートルクラスの大型バスの後部座席3列分相当を荷台スペースとして改造。運転席側に観音開きの専用扉があり、ここから荷物の積込などを行うことができる。当面は専用ボックスによる輸送を行うが、パレットを用いた輸送にも対応する。旅客スペースは、通路を挟んで2人掛け座席が左右に並び8列で座席定員32人。

 バスは盛岡駅から国道106号を走る「106急行バス」として旅客の営業運行を行うが、その前にヤマト運輸の盛岡西営業所で北上市の物流ターミナルからトラックで運ばれた宮古市内の重茂(おもえ)半島向け貨物を積み込む。94キロメートルを2時間15分かけて宮古駅まで旅客営業を行った後、ヤマト運輸の宮古営業所に向かい貨物を重茂半島行きの路線バスに乗せ換える。宮古営業所から約18キロメートル離れた重茂半島まで路線バスで貨客混載を行った後、岩手県北自動車の重茂車庫でヤマト運輸のSDに宅急便貨物を引き渡す。盛岡西営業所から重茂半島までは、100キロメートルを超える貨客混載が行われ、バスとトラックそれぞれに輸送を行う場合に比べ、路線バスの生産性と物流の効率が大きく向上するほか、CO2削減にも寄与する。

 ヤマト運輸では今後の展開について、「まごころ宅急便」と貨客混載を組み合わせたサービスの開発を検討しており、高齢化や過疎化が進む中山間地域などにおける課題解決と地域活性化に取り組んでいくとしている。また、岩手県北自動車を擁する「みちのりホールディングス」は、福島県・栃木県・茨城県でもグループ会社がバス運行などを行っているが、ホールディングスの社長も兼務する岩手県北自動車の松本社長は、他地域でもヤマト運輸と組んで貨客混載を行う方針を出発式で語っており、こうした取り組みが今後各地で行われる可能性が高い。

女性活躍支援「わくわくアワード」開催、最優秀賞に佐川急便千代田営業所と佐川グローバルロジスティクス  SGHD

佐川急便千代田営業所チーム 佐川グローバルロジスティクス本社チーム

 SGホールディングス(町田公志社長)はこのほど、東京都江東区の佐川東京ロジスティクスセンターで、女性の感性を生かした意見・発案による新しいビジネスの創出等を表彰する社内制度、第2回「わくわくアワード」を開催。最優秀賞に佐川急便千代田営業所と佐川グローバルロジスティクス本社の2チームを選出した。女性活躍を推進する企業風土の醸成などを目的として2013年度から実施。2回目の今回は148件の応募の中から6チームが選ばれ、会社幹部ら審査員の前でプレゼンテーションを行った。

 最優秀賞の佐川急便千代田支店は、女性発案の新サービスで観光事業参入に取り組んだ点が、佐川グローバルロジスティクス本社は女性目線で顧客提案や業務改善に取り組み業績向上に貢献した点が、それぞれ評価されたとしている。このほか佐川急便潮来営業所、SGムービング本社、佐川急便久喜営業所、SGフィルダー中部支店の4チームが敢闘賞を受賞した。

今週掲載トピック一覧

  • 特集・営業倉庫
     寄稿-国土交通省大臣官房参事官(物流担当)・坂巻健太氏
      『BCP策定「三種の神器」を「三位一体」で推進』
     インタビュー-日本倉庫協会常務理事・小笠原審氏
      『実態・実績踏まえ新たな課題に取り組む』
     トピック
      『物流効率化法認定件数は2014年度過去最高の36件に』
      『東京国道事務所が災害時の放置車両移動に倉庫のフォークリフト活用を検討』
    ☆特集・通運
     寄稿-全国通運連盟理事長・飯塚裕氏
      『通運連盟15年度事業、モーダルシフト推進・定着へ』
     トピック 
      『どうなる「青函共用走行問題」、新幹線と貨物列車が共存共栄の道探る』
     インタビュー-日本貨物鉄道取締役営業統括部長・真貝康一氏
      『マーケティング中心に顧客志向の商品作り』
     各利用運送事業者担当者に聞く2015年度営業施策
      日本通運通運部長・中島覚氏
      全国通運専務取締役・雨宮康夫氏
      日本フレートライナー執行役員・岩本和朗氏
    ☆インタビュー・長尾裕ヤマト運輸社長『一番身近で一番愛される企業に~幹線輸送に危機感も~』
    ☆人物ウィークリー、国土交通省関東運輸局・齋藤隆千葉運輸支局長

  • ☆ヤマトHD、ネット通販支援のパッケージサービス「YES!」発売
    ☆SG佐川ベトナム、ベトナム国内で保冷宅配サービス開始
    ☆メキシコ日通、通関等業務をマンサージョ港に集約
    ☆昨年のドラコン部門優勝者4人が安倍総理をがヤマト運輸・長尾社長が労組研修会で講演、顧客目線でサービス見直し訴える
    ☆トナミ、HDとトナミ運輸が6月1日付で組織改正
    ☆セイノーHD、約2万7千人が「小さな親切運動」
    ☆物流連、ユニットロードシステム検討小委の発足準備会議
    ☆全ト協・日貨協連、5月のWebKITは今年初めて荷物情報が前年上回る
    ☆日冷倉協が総会、新会長に細見日本水産社長を選任
    ☆交通労連が政策討論集会開く、労働力不足対応など政策要求案を審議
    ☆国交省検討会でJR貨物が説明、輸送障害時の代替輸送力は昨年東海道線不通時の8割増を見込む
    ☆国交省、トラック中継輸送の注意点などホームページにアップ

今週のユソー編集室

  • ▼国土交通省が先日立ち上げた、トラックドライバーの労働時間短縮を目指す協議会には、荷主や労働組合、厚生労働省、経済産業省など、幅広い層から出席者があった。
    ▼背景には今国会で審議される改正労基法において、中小企業に猶予されていた月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率増加が、2019年4月から適用されることにある。この措置で一番大きな負担がかかるのが、トラック運送業界なのだそうだ。
    ▼周知のとおりトラック運転者の長時間労働は荷主都合による部分も多く、トラック運送事業者だけの努力では改善は困難だろう。国が本腰を入れて対処する姿勢を示しているのは心強い。
    ▼会議ではある荷主関係者が「必要もないのに月曜朝一番の配送を要請していた」と語り、トラックの都合を考えていなかったと振り返ったという。今は小さな一歩かもしれないが、こうした「気づき」がやがて大きな成果につながっていくことを期待したい。

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